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フランスで考えた中上健次のこと
宗教二世にとっての社会物語学
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2025年6月20日
- 書店発売日
- 2025年6月20日
- 登録日
- 2025年5月19日
- 最終更新日
- 2025年7月7日
紹介
旧統一教会の信者たる両親のもと〈神の子〉として生まれた著者が、フランスの地で中上健次の文学に触れ、その特異な〈物語論〉に自らの出自を重ねて織り成す論考900枚──文学と社会問題を斬り結ぶ新鋭のデビュー作!
目次
問題の所在をめぐって
1・1 中上健次のいう物語とは何か
1・2 中上の議論を追う上で重要なこと
1・3 中上の物語論の位置付け
1・3・1 折口信夫のいう物語とは何か
藤井貞和の議論
折口信夫のモノ概念
物語の内部構造
意味作用としての物語
折口=中上の物語概念
1・3・2 蓮實重彦のいう物語とは何か
1・3・3 アーサー・フランクのいう物語とは何か
社会物語学の理論的な枠組み
物語が「私」を形作るメカニズム
物語というトリックスターとの付きあい方
中上健次を読む
2・1 「中上健次」ができるまで(1946-1976)
2・1・1 三つの苗字と作家名
2・1・2 音の人、中上健次
2・2 前期物語論(1977-1982)
2・2・1 物語論の時代背景
路地の匿名性と固有性
新宮市における同和行政
中上にとっての部落差別
2・2・2 差別=物語を読みなおす
震える穴のアナロジー
太陽肛門を出入りするモノ
オイディプスの目にあいた穴
物語をうつす物語
2・2・3 近代=物語を読みなおす
柄谷行人や蓮實重彦との関わり
文学と部落問題
物語のブタを礼賛
日本人であることへの違和
2・2・4 小括
2・3 後期物語論(1983-1989)
2・3・1 路地=物語を読みなおす
うつほのうつろい
うつほのヴァイブレイション
2・3・2 日本=物語を読みなおす
物語の生理としてのダブルバインド
南の島のアイヤの宿命
三島由紀夫の穴から聞こえる声
炎上する日の丸に応える
2・4 余白のなかのリベラリズム(1990-1992)
2・4・1 国際的であることへの問い
──熊野とパリをベンヤミンとともに
2・4・2 人間として生きているということへの問い
2・4・3 総括
時代を巻き戻す──少し長めのエピローグ
中上健次と三島由紀夫
私の兄のこと
私の父のこと
私自身のこと
痛み分けの術
参考文献
謝 辞
前書きなど
謝 辞
本書は私が⼆〇⼆⼆年にフランス語で書いていたものを⽇本語圏の読者にむけて⼀から書きあらためたものだ。もともとはフランス国⽴東洋⾔語⽂化学院に博⼠論⽂として提出するためのものだった。しかし、⼆〇⼆⼆年七⽉⼋⽇の安倍晋三銃撃を受けて⼈⽣のあらゆることがどうでもよくなってしまい、⽂字通りすべてを投げだしてしまった。そのなかにはフランスでの職や家、妻⼦、国籍も含まれている。そして、それまでいたずらに名乗りつづけてきた私⾃⾝の⽒名も含まれている。私は⾃分がもうこの世界にはいないような気がした。いてはいけないような気がした。そんななか、私を励ましてくださる声があった。⾼澤秀次さん。⼤塚英志さん。藤井貞和さん。柄⾕⾏⼈さん。アーサー・フランクさん。そして、⽥畑書店の⼤槻慎⼆さん。そういった⽅々の何気なくかけてくださった声が⼤きな⽀えとなった。しかしなによりも私に声援をおくってくれていたのはやはり、中上健次さんの遺していった⾔葉だったと思う。それらすべての声がなければ、まだこうしてこの世界に息づいている者として、この謝辞を書くこともなかった。どうかすこしでもそれらの声に応えることができたのなら、と切に願っている。そして、私たちがみな死んでしまったあとになっても、私たちが⽣き遺してしまっただれか、まだ息をしているために耐えがたい痛みを今ここで感じているだれかを励ます声になれば、うれしい。
二〇二五年 三月十三日 著者しるす
版元から一言
時代を超え、また世代を超えて、中上健次の文学が与える影響の大きさを実感いたします。中上が抱えていた「差別」の問題は、国境を越えて浸透する力があり、それが今回は「旧統一教会=宗教二世」の問題と真正面から斬り結ばれています。いま、まさに読まれるべき文学論でもあり、また社会学でもあると思います。
上記内容は本書刊行時のものです。