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バイヨンの月
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2024年10月5日
- 書店発売日
- 2024年10月5日
- 登録日
- 2024年7月22日
- 最終更新日
- 2024年10月4日
紹介
IKTT(クメール伝統織物研究所)を1996年に設立し、カンボジアの伝統的絹織物の復興と再生に取り組んできた故・森本喜久男が22年前に著した草稿が甦る!
カンボジア内戦を生き残った「おばあ」たちの手の記憶を甦らせ、その技術を若い世代に継承させるだけでなく、素材となる生糸や自然染料の自給と、染め織りとともにある暮らしの再生を目指す「伝統の森」という村を作り上げるに至った経緯とその背景を思いのままに綴った記録が、詳細な註ならびに現在に至るまでの経緯と解説とともに出現。カンボジアのノロドム・シハモニ国王から「この布にはカンボジアの心がこもっている」との称賛を得るに至った絣布が生まれるまでの足跡がここに!
目次
◆第一部【花】 自然の恵みを受け継いで
バイヨンの月/最後のモンスーン林/もうひとつのバイヨン/自然の痛み/ラックカイガラムシ/わずか十年/秘法の染め/混色の習慣/ゆらゆらと揺れる火/泡盛と同じ/プロフーの林
◆第二部【鳥】 布に込められた伝統の技 美しい竹の村/鉄の花/マスターピース/西表の山で/芭蕉の紐/職人気質/繊細な括り/シルクもどき/神業の仕事/自然の染料/布の存在感/手で引く糸
◆第三部【風】 よみがえった黄金の繭
プノンペン時代/伝統の掘り起こし/危険地帯/桑の原種/村びとの動機/自然の循環/消えてしまった苗木/元気に育つ桑/一枚の赤い布/絡みあう糸
◆第四部【月】 新たなる出発
シェムリアップの町で/研究所の中心/道具をいたわる/気がつけば/狭間の仕事/走りながら考える/踏み出す勇気/布の履歴書/雨にもめげず/村の一角/研究所の詳細/寺小屋職業訓練所/「伝統の森」の再生に向けて
◆エピローグ 『バイヨンの月』執筆後の森本さんとIKTTの歩み(西川 潤)
『バイヨンの月』が執筆されたころ/その足跡・世界へ/その足跡・日本で/カンボジアシルクへの貢献/ファッションショーと「蚕まつり」の実施/カンボジア語での出版プロジェクト/シェムリアップの繁栄とIKTTの発展/「伝統の森」の進展/再生、そして安泰を願って/森本さん亡き後のIKTTと「伝統の森」/コロナ禍を超えて/土地をまもる、暮らしをまもる/さらなる高みへ
◆付 IKTT設立以前の森本さんについてわたしが知っているいくつかのこと(西川 潤)
民宿もりもと/草木染めシルクの店・バイマイ/多才の人・森本喜久男/デモとツイスト/友禅職人バンコクへ/テキスタイル・ミュージアムからの依頼/IKTT設立前夜
前書きなど
早いものでカンボジアに来て、あしかけ9年がたつ、
いつもそうなのだけれど、こんな風に過ごすなどとは、思ってもみなかった。
これも縁、気がつけばシェムリアップのはずれに居をかまえ、布と暮らす日々。
イサーンからメコンへ、そしてアンコールからオキナワ、
そんなアジアの花鳥風月、伝統と自然に、ナーガのごとくからむ人たち。
そして、森を作ろうとなどといい始める始末、
最後までお読みいただければ幸いであります。
あわせ、わたしの活動をこれまで支えてきていただいたすべての人に
感謝の気持ちを込めて。
2002年7月 シェムリアップにて 森本喜久男
版元から一言
この『バイヨンの月』の原稿を森本喜久男さんがまとめたのは2001年から2002年にかけてのこと。その当時の出版であれば、本書はIKTTのリアルな活動記録という位置づけもできた。だが、それから20年以上が経った。改めて読み返してみると、かつてあったはずの「自然染」技術への記述は、自然を敬う気持ちと、布が織り上がるまでの手間への愛情に満ちている。今なお進行中の「伝統の森」再生計画は、一義的には、かつてあったはずの「村の暮らし」の復活だが、最終的にはきわめてすぐれた「循環型社会」の構築へと移行する試みの記録であり、アジアの農村で「女性たちのため」の「持続可能な発展」を試みるNGOプロジェクトの先行事例として読むこともできる。
だが、一つひとつのプロジェクトが、彼が思い描いたとおりに順調にいくとは限らない。「xxを始めようと思ってるんだよね」という話を聞いてはいたが、その後それを始める気配もなく、諦めてしまったのだろうかと思っていると、二年か三年経ったころ、それがとつぜん動き出すこともあった。予算の都合なのか、ふさわしい担い手がみつからなかったのか、それより優先すべき案件が飛び込んできたのか、……そのすべてだったのだろうと、今では理解できる。IKTTの活動は、複数のNGOがそのミッションとして掲げているような事業を、森本さんひとりで回していたからだ。伝統織物の復興、その担い手となる女性たちの就労と生活支援、染め織りに必要な桑や綿花そして染め材となる植物の栽培と育成、これらの作業を行なう工房と一体化した生活の場の構築、さらにはそれらをすべて包み込む自然環境の再生など、――こうしたさまざまな事業は、最終的には「世界一の布をつくる」ということに集約され、森本さんの頭の中では迷うことなく緊密に結びついていた。
今回、本書を発行するにあたっては、その後の経緯や、参考資料による補足、思い出したかのように森本さんが語ったことなどを脚注として加えることにした。それにより、当時の状況を知らない読者や、森本さん個人には会ったこともないという現在の読者にもなんらかの参考になれば幸いである。
なお、本文で使用したモノクロ写真は当時のもの、あるいは当時の様子がうかがえるものを使用するようにした。一方、口絵のカラー写真については、ごく最近のもので構成している。二十年のときを経て、さらに進化したIKTTの染め織りを堪能していただきたい。
上記内容は本書刊行時のものです。